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一九九八年七月二一日に行われた参議院選挙で、自民党は四四議席しか取れず、それまでの六一議席を大きく下回る惨敗となったことは記憶に新しいと思います。 私自身は六月の時点で、失業率の悪化を食い止められないこと、H首相が「恒久減税」を明言できないことなどから、惨敗もありえるとの分析をまとめていました。
その結果は先の通りであり、大勢が判明した頃には早くもH首相が退陣を表明し、政局は一転して、次の総理に誰がなるかということに関心が移りました。 いち早く立候補を表明したのが、最大派閥・O派会長であり誰もが次期総理と思っていた小湖外務大臣でした。
雰囲気は「O外相で決まり」といったムードでしたが、一度出馬を取りやめたK元官房長官が再度出馬を決定、そして最後にはK厚生大臣も立候補を決めました。 三人の立候補が確定し、総裁選挙は七月二四日に行われることが決まったところで、市場関係者の間でも誰が次期総裁になるかということに話題が集中しました。
私は九四年の政治改革法案に絡んだ相場の動きを当てた実績があったため、私のところにもたくさんの問い合わせがきました。 市場関係者の考えはまったくと言っていいほど同じであり、私の考えもまたそうでした。
すなわち、O氏なら日経平均株価は下落、K氏あるいはK氏なら上昇です。 O氏はT元総理大臣の下での調整能力だけしかない人物と判断されていて、大部分の人には官房長官時に「平成」の元号を発表した印象しかありません。
一方、K氏は独自の経済対策を発表し、市場関係者の大きな評価を得ていました。 また、自分たちのことしか考えない銀行、大蔵省にも政治主導の思い切った対策を断行できると期待されていました。
またK氏は、以前から郵政の民営化を公言し、徐々に考えが一般国民にも浸透していました。 このときも、公務員の数をドラスティックに減らすだけでなく、代議士の数を減らすことも表明し、国民の人気はダントツでした。

どのテレビの世論調査でも、国民の支持率はK氏かK氏がトップで、小湖氏の数はその七分の一から八分の一というものでした。 こうした調査結果は、市場関係者が一番見ているニュース番組でも顕著に表れていました。
大部分の関係者の予測は、短期的に相場が一番上昇するのはK氏で決まった場合、K氏が当選した場合には長期的に相場が上昇、ということでまとまっていたのです。 しかし一般国民の声とはまったく逆に、最大派閥の領袖であるO氏の優勢は圧倒的でした。
そして、M派のO支持が決定した時点で、すでに勝負はほぼ決まってしまいました。 総裁選挙は七月二四日でしたが、すでに二二日から相場は下げ基調になり、日経平均株価は一万六〇〇〇円台の前半で、小湖氏当選をほぼ織り込み始めました。
そしてO氏に決まっても相場は下がらない水準まで来たのです。 デリバティブで儲けるにはこの「織り込み」を判断するのがとくに重要なのです。
そこで私はこう考えました。 すでにマーケットはO氏当選を織り込んでいるので、二四日に案の定、O氏に決まったとしても、日経平均株価は下がらないだろう。
一方、可能性は一〇%以下だが、万が一、K氏かK氏に決まれば暴騰することは間違いない。 つまり、短期的に相場の下げはなく、あるとすれば急騰だから、日経平均オプションのコールに賭ければ、ローリスクでハイリターンが望めるではないか、と。
株式関係のオプションでは、短期的に平均株価が急騰すると思えばコールオプションの買い、急落すると思えばプットオプションの買いというのが基本なのです。 数日前に二四日の選挙は一四時から行われることがわかり、私は日経平均が上がれば儲かる「一六五コール」を買いました。
二四日の選挙では投票が進むにつれ、「Oさんになっても、Hさんよりはましだろう」という思いのせいか、時間が追うごとに買戻しが働き、結局相場は上昇しました。 私の予想では一五時前に結果が出ると判断していましたが、それは無理でした。

そのとき私はどうしても外出しなければならず、売却を余儀なくされました。 結局、この投資ではプラス・マイナスはほぼゼロでしたが、投資する価値は大いにあったと確信しています。
なお、投票結果の発表が行われたのが、大阪証券取引所の閉まる一五時一五分のわずか数分前だったため、先物ディーラーの多くはSIMEXに注文を出せるように電話をつなぎっぱなしにしておいたということです。 しかし現実にはO氏当確が決まった時点で「売りか買いか」迷ったディーラーも多かったようですから、相場は面白いものです。
さて、この話には続きがあります。 市場関係者だけでなく国民がもっとも望まないO氏が総理大臣に確定しましたが、まだまだ不確定要素がありました。
それは大蔵大臣に誰がなるかということです。 有力な永田町のブレーンから私に「K氏が副総理・大蔵大臣のポストなら受けるだろう」という情報が入り、その行方を見守っていたところ、N氏が官房長官に内定し、これでK氏入閣の目は一〇〇%なくなりました。
O氏に決まってから初めての株式市場は七月二七日、月曜日です。 K氏、K氏に期待していた市場参加者の失望売りにより四一七円の大幅安で一万六〇〇〇円を割って終了しました。
しかし次の火曜日から「少なくともHさんよりはましだろう」「なんにもやらないはずはない」といった、どん底のなかの希望みたいなものが出て、その週の金曜日には一万六三七八円まで戻りました。 そして問題の大蔵大臣には、自民党内のさまざまな駆け引きの結果、結局、M元首相に決まりました。
M元首相は大蔵官僚で大蔵大臣も経験しましたが、バブル処理を誤り、現在の大不況を引き起こした戦犯の一人と言われていました。 M総理は九三年に銀行の不良債権処理を公的資金でやるべきだと思っていたにもかかわらず、当時の日経連会長永野氏が言った「銀行員の給料が高いのになんで銀行を助けなければならないのか」の一言で、このスキームはなくなりました。
製造業に比べて銀行の給料が高いのは紛れもない事実ですが、この発言は明らかに製造業時金融業界を意識した発言でした。 政治主導でいろいろなことを解決しなければならない時期でしたが、圧力に屈した結果が現在の日本の大不況なのです。
これらのことはM氏も一部国会で述べており、読者もご存じでしょう。 きて、組閣が済んで株式市場も一応落ち着きを取り戻しましたが、私は、株は再び下落するだろうと確信しており、ポジションをとるタイミングを見計らっていました。

その理由は、初めから考えていたように、小湖首相ではリーダーシップが取れないことは確実であること、M大蔵大臣では、前から議論されていた金融再生法案が結局はまともなものにならず、マーケットにはマイナスにしかならないだろうということ、この法案のモデルとなったアメリカも導入時に株価の下落を招いたこと、参議院で自民党が過半数割れを起こし、政局が不安定なこと、菅直人氏が民主党の代表であり、自民党との安易な妥協はないと考えていたこと、私自身の自民党に対する信頼がまったくなくなっていたこと、そして日本政府、官僚、金融界に危機感がないこと、などたくさんありました。 ただ、株価が下落することは確信していましたが、特別にマーケットイベントがあるわけではありません。

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